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第53話 貴族のコラール、畏怖と威風(前半)

last update Dernière mise à jour: 2025-11-16 06:07:54

 ローラント殿が「バージル殿下! だから、そのような言い方はっ!」と、悲鳴に近い声で窘めているが、もう遅い。そう、もう、何もかもが、遅すぎるのですわ。

 吐いた唾は戻らぬと、言うでしょう?

「あら、そうですの。では、こうお答え差し上げますわね。わたくしも“あなたのことが好きだ”とは、最初から、ただの一度も、申し上げたことはございませんわ」

 サアッっと、温度が下がった気がした。

 誰も、声を発しせない。ええ、わたくし以外は、ね。

「今まで不可解でしたけれど、そういうことでしたのね。でも、おあいにく様。……わたくし、殿方のエスコートを得るために、頭を下げるような女じゃございませんの」

 歩み寄ってやるから、都合の良い理解者になって、縋りなさい。そんな、傲慢な慈悲なら、こちらから願い下げですわ!

 パチン、と扇を閉じると、踵を返す。「あっ」とルチアが声を上げたが、もう、取り合うことはできなかった。

「お話は、よくわかりましたわ。夜会のエスコート役が必要だ、と。ならば、わたくし自身で、素敵な殿方を、探すことにいたします」

「ま、待つのだっ!」

 公衆の面前での、不敬。多くの生徒がいる中で……明らかな反抗。

 でも、もう止まらない。止まりたくも、ない!

「――どうぞ、お・か・ま・い・な・くっ!」

 もう、“穏便に”だなんて、甘ったれた考えは、綺麗さっぱり、消え失せてしまったのだからっ!

***

 そんな王立アカデミーでの、大舌戦の後……。

 わたくしは、父の書斎に呼び出された。おそるおそる扉をノック。

(うう……アカデミーでの公然たる不敬。さすがに、今回はパパも、本気で激怒。雷が落ちるに違いないわ……)

 勘当……は、流石にないと思いたいけれど。

 少なくとも、謹慎。いえ、どこか人里離れた修道院
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